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【C88】「PRANK! Vol.1 ノイタミナ10周年評論集」 ノイタミナと月9

同人 C88

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アニメの月9

 

はじめに

二階士可です。好きなノイタミナ作品はハチミツとクローバーです。

フジテレビの深夜アニメ枠ノイタミナ。昨年で10周年だそうで。おめでとうございます。サークルLandScape plusのC88新刊「PRANK! Vol.1 ノイタミナ10周年評論集」はその名の通りノイタミナ作品の評論同人誌です。

サークル・LandScape plusは来たるコミックマーケット88に向けて評論同人誌『PRANK!』を創刊し、その第1号として『PRANK! Vol.1 ノイタミナ10周年評論集』を頒布します。  2015年4月に丸10周年を迎えたフジテレビの深夜アニメ枠・ノイタミナ。その作品やクリエイターについて特集しました。『ハチミツとクローバー』から『冴えない彼女の育てかた』まで、ノイタミナファンにも、そうでない方にもお楽しみ頂ける一冊です。

PRANK Vol.1 - LandScape Official Site

目次

Chapter1. アウトライン・総論

・ノイタミナラインナップガイド……羽海野渉(@WataruUmino)

・ノイタミナとTBS(2007.4~)……ばると(@barthes1980)

・ノイタミナラジオ勝手に厳選集……ヱイン(@einbelt_a)

・石田祐康の空想にのせるセカイ……ヱイン×羽海野渉×群馬仁(@Gunmajin_puff) Chapter2. 一枠時代

・世界の中心で王子様と私は――LOVE&POP!……羽海野渉

Chapter3. 2010年度

・並行世界で紡がれる物語……あんすこむたん(@deyidan)

・ふたつの旅路と海の夢――Fのレコンギスタ……すぱんくtheはにー(@SpANK888)

・純粋さ、素直さ、透明さ――『放浪息子』の持つ豊穣さと寛容さ……バーニング(@burningsan)

Chapter4. 2011年度

・みんなのめんま……どらトラ(@dragonsnow1992)

・エンジンを止めて――主人公と「車」の関係から考える『UN-GO』……絵樟(@EX5551) Chapter5. 2012年度

・Books,Canons,and Violence――サイコパスは紙の本の夢を見るか?……波野淵紺(@nocitponap)

Chapter6. 2013年度

・メイズ・ランナー――『サムライフラメンコ』×『デュラララ!!』……ヒサゴプラン(@tsiolko)

Chapter7. 2014年度

・〈翻訳〉作品としての『ピンポン THE ANIMATION』……小菊菜(@95Kogikuna)

・真摯に向き合う、その先にあるもの――四月は君の嘘……なーる(@narunaru_naruna)

・冴えないアニメの論じかた――ようこそ昼夜逆転の創造の世界へ……羽海野渉

Column

・「ノイタミナFAN BEST」をノイタミナファンが【せれくと】してみた。……羽海野渉×ヱイン×群馬仁 ・ノイタミナファンが選ぶ!ノイタミナ話数別10選……羽海野渉×ヱイン×群馬仁×どらトラ

PRANK Vol.1 - LandScape Official Site

ここで一つ申し訳ない話をしておくとですね。僕ノイタミナ作品ってほとんど見てないんです。見たことがあるのは「ハチミツとクローバー」、「ハチミツとクローバーII」、「フラクタル」、「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」、「PSYCHO-PASS サイコパス」、そして現在放送中の「乱歩奇譚 Game of Laplace」だけ。さらに申し訳ない話をしておくと全話見たのはハチクロのみというありさまでして。ですから以下個別の作品について語られた評論への感想、ではなく本書を通して個人的に「ノイタミナってなんだ?」と考えたことをつらつらと書き連ねたということを予め断っておきます。

ノイタミナだから見る

こう、なんていうんでしょう。「アニメを放送枠で見る」っていう見方をしたことがないんですよね。原作が好きだから見る、監督が好きだから見る、話題作だから見る、やってるから見るとか。各々いろいろなきっかけでアニメを見ていると思うんです。

それで言うとノイタミナは「ノイタミナだから見る」っていう見方をしている人がいるってことなんですよね。きっと。これって結構すごいことだなと。フジテレビには「月9」という看板ドラマ枠がありますけどノイタミナもこの10年で「月9だから見る」的な、そういう見方の一つとしてこの10年で定着したのかな?と思ったり。

で。本書は「10周年を統べるファン目線での本を制作しようとした」と巻頭言でその企画意図が述べられている。「Animation」(アニメーション)を逆さ読みでローマ字読みしたもので、「アニメの常識を覆したい」「すべての人にアニメを見てもらいたい」という制作スタッフの想いに由来する」*1ノイタミナの放送タイトルは本書では次の5つに分類されている。

1.普段深夜アニメを見ない人を主な視聴者に想定した有名タイトル原作作品

2.コアなファンを有するタイトルを原作に据えた作品

3.社会批判性のある作品

4.クリエイターの個性が輝く作品

5.従来の深夜アニメファンも視野に入れた作品

僕が唯一最後まで見たハチクロは無論1だ。ただこれは「ノイタミナだから見る」という見方で見たわけではない。ノイタミナを語る上でやはり重要なのは3であったり4なんだろうなとは思ったり。

本書はノイタミナファンによって作られている。ノイタミナファンは何が好きなんだろうか。本書を読み終えて改めて「ノイタミナ ランキング」とか検索してみたりする。予想通りと言うべきか。一位は「あの花」で、以下は「サイコパス」だったり「ギルティクラウン」だったり「四月は君の嘘」だったりとバラバラ。もちろん本書で語られている作品の名前も上がる。

ノイタミナで放送された作品のほとんどを僕はまだ知らないのでアレなんですが、このバラバラさ加減が本書の巻頭言で述べられている「アヴァンギャルドな放送枠」としてのノイタミナを体現しているんじゃないかなと。「アニメの常識を覆したい」「すべての人にアニメを見てもらいたい」という思いから名付けられたノイタミナがこの10年である程度の成功を収めているのかな。なんて。

ノイタミナと月9

最初に触れましたがフジテレビには「月9」というドラマ枠があります。「月9」は若年層をターゲットにし、いわゆる「トレンディドラマ」などのヒットにより90年代から00年代にかけて黄金時代を築きました。内容はラブストーリーが多かったですが、00年代以降は「HERO」やノイタミナでも放送された「のだめカンタービレ」等他ジャンルの作品も放送されています。*2

ノイタミナの開始は2005年。月9でいうと木村拓哉主演の「エンジン」が放送されていた頃です。最高視聴率25.3%、平均視聴率22.6%。現在放送中の月9「恋仲」の初回視聴率が9.8%ですから*3まだ全然よかったころですね。そんなときに始まったノイタミナは最初こそ有名タイトル中心でしたが徐々に今のノイタミナらしい作品みたいなものが出てきはじめ、2009年に放送された「東のエデン」の名は当時見ていなかった僕もかなり耳にしました。

「東のエデン」と同時期に放送されていた月9のドラマは中居正広主演の「婚カツ!」ですが最高視聴率16.3%、平均視聴率10.6%とまあまだギリギリ2ケタなので……いやでも「エンジン」からわずか4年で10パーセントも落ちているわけです。まあ視聴率なんていうのは1つの指標でしかないので参考程度に。

ドラマはアニメより一般層を意識して作られていると思います。フジテレビのプロデューサー大多亮が「101回目のプロポーズ」などを手がけた脚本家の野島伸司について語った1992年当時のインタビューでその作品を貫いているテーマは「清貧」とだと述べています。*4

もちろん月9で放送されているドラマの全てがそういった作品ばかりではないが、主人公の清貧さ、逆境をはねのけてサクセスを掴むみたいな。そんな姿に日本中が感動し涙する。そんな時代は確かにあった。でももうそういう時代でもないのかなと。トレンディなんて言葉も日経トレンディぐらいでしか聞かなくなりました。

月9低迷の原因は諸説あると思いますがひとつのドラマが示すテーマでは一般層の共感を呼びにくくなったのではないか、と個人的には思います。もっと適当に言ってしまえば現在残っている月曜9時にテレビの前に座ってドラマを見る層がドラマを求めている層で、あとは「流行ってたから見る」的な人たちで、そういう人たちは他の娯楽へ移っちゃったんじゃないかなとか思ったり。

一般性とオタクカルチャー

月9の話ばかりしてきましたがこれはそれほどノイタミナと関係のない話でもなくって。かつてノイタミナのプロデューサーだった山本幸治はインタビューで「いろいろな会社に企画をプレゼンする時の口説き文句として使っていたのが、「アニメの月9をやりたい」という言葉だった。」と述べています。*5

山本 ただ、この言い方には幅広い解釈がありまして。僕としては、TVアニメ全体のラインナップの中で、月9的なポジションを確立したい、という意味で言っていたんです。

先ほど上げた「東のエデン」、そして本書でも評論されている「フラクタル」「あの花」「サイコパス」など、有名原作作品でないオリジナル作品が注目を集めることで「アヴァンギャルドな放送枠」としてのノイタミナというポジションを確立したのではないか。事実山本は「東のエデン」によって「一般性とオタクカルチャーを両方出したい」という思いが実現できた述べています。*6

このオタク層にウケる作品だけではなく一般層も取り込むこと。これはノイタミナ最大のヒット作である「あの花」が最も分かりやすく現れていたのではないかと思います。本書の評論「みんなのめんま」の中で「2011年当時中学生や大学生くらいの視聴者にとってドンピシャなネタが多く、そこにノスタルジーを感じることで大きく心を動かさたのだろう」と述べられています。

ただ既に上げたように好きなノイタミナ作品で調べると上がってくる名前はバラバラ。でもノイタミナという枠があることでひとつひとつのアニメのテーマや作風がバラバラでもコアな視聴者から流行ってるから見るといった視聴者まで取り込むことに成功したのではないかと思ったりします。

サンキュータツオ アニメ好きの人と一般の人という分け方についてはどう思いますか。

山本 アニメ好きが一般化しているとは思うんです。『アメトーーク!』でもジョジョ(『ジョジョの奇妙な冒険』)芸人とか取り上げられるくらいに一般化しているし、昔の『電車男』的なところにはもういないと思います。  

痛みに対する反応、いわゆるリア充に対する反応みたいなことを言うと、景気が悪くて、雇用も安定しないので、いろんな意味でオタク化が進んでいるというか。

サンキュータツオ アニメを見ようとする分母は潜在的に増えていると。

山本 僕ですらドラマとかには感情移入できないわけですよ、よっぽどの何かがないと。「この子かわいいな」とか別の着眼点で見ることはありますけど、ドラマの方がリアルなはずなのにすごい絵空事になっているんです。『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』なんかはドラマっぽいとも言えますが、アニメカルチャーの人たちにとってすごいリアルだったということではないでしょうか。

サンキュータツオ 昔ほどオタク層と一般層という枠組みがなくなって、グレーなところが増えたということでは「まだ新しく仕掛けがいのあるマーケット」と考えているんですね。

DVDだけではないビジネスを模索したい――フジ・ノイタミナプロデューサーが語るアニメの今 (5/6) - ITmedia ビジネスオンライン

ノイタミナのこれから

ただこれからはどうなるか分からないわけで。アニメの月9的なポジションとしてのノイタミナはこの10年である程度定着したと思います。ただ月9のように今後低迷しないとも限りません。アニメを見る層はオタクに限らずこの10年で増えた。その成り立ちから考えてもノイタミナが貢献してきた部分もあるでしょう。ただそうやって増やしてきた視聴者を今後どのように魅了し、さらに新たな層を開拓していくのか。今年の10月からは森博嗣原作の「すべてがFになる THE PERFECT INSIDER」、来年1月からは三部けい原作「僕だけがいない街」という注目作がはじまり、劇場作としては伊藤計劃の作品が公開予定になっているノイタミナ。これまでの10年に感謝し、これからの10年に胸躍らせたいと思います。

おわりに

ノイタミナ10周年本当におめでとうございます。実は本書を知るまでそのことに気がつかなかったんですが、そうか「ハチミツとクローバー」から10年経ったんだと。この10年1度だって今回書いてきたことを考えたことなんてないんですがとっちらかりつつも久々に書いてて楽しかった。ありがとうノイタミナ。そして本書には感謝してもしきれない部分がある。だって今放送してる「乱歩奇譚 Game of Laplac」とかコバヤシの女装姿とケツについての感想しか言ってないもん。マジ。

で。改めて本書の印象を語っておくとすごく真面目で真摯に作品と向き合っているのはすごいなと。個々の作品を見ていればもっと深く語ることができたのではないか?と思うとノイタミナに向き合ってこなかった自分が残念、という感じ。どれも読み応えのある評論ですが個人的には「ノイタミナとTBS(2007.4~)……ばると(@barthes1980)」、「世界の中心で王子様と私は――LOVE&POP!……羽海野渉」、「みんなのめんま……どらトラ(@dragonsnow1992)」、「冴えないアニメの論じかた――ようこそ昼夜逆転の創造の世界へ……羽海野渉」は特によかったね……。「図書館戦争」と「冴えない彼女の育てかた」見よう。

中でも「ノイタミナとTBS(2007.4~)」に関してはノイタミナと同時期に放送されていたTBSのアニメに関する評論で、今回僕がこれを書くきっかけになった評論なので個人的には感謝感謝です。

個別の作品が好きであればどれも新たな知見が得られるかと思うのでノイタミナ好きはぜひ。紹介された作品を見てまた読むという楽しみ方もできそうです。

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C88同人誌感想

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